鎌倉好き集まれ!十六夜さんの鎌倉リポート・第58号(2010年11月20日)

鎌倉文学散歩

帰源院と文人

帰源院山門

円覚寺の山門の右手の道を上っていくと、左手に塔頭の一つである「帰源院」の山門が現われてきます。茅葺きの形の良い山門で、周囲の風景にぴったりはまっているような感じです。

詩人、小説家の島崎藤村は明治二十六年(1893)の八月と十月に、それぞれ一ヶ月ほどこの「帰源院」で過ごしました。小説「春」の中で「帰源院」の出てくる場面を紹介しますが、岸本が島崎藤村自身です。

岸本が泊って居るところは円覚寺境内の古い禅寺で、苔の生えた石段を登りつめたところに門を構へたやうな位置に在る。住職は親切な人だし、門前の飯屋とも懇意ではあるし、以前からの関係で復岸本は斯の寺に置いて貰ふことにした。

長編小説「春」のなかに書かれているほんの一部分です。「春」は藤村の青春時代を描いた作品で、自伝小説の新領域を開いたとされています。

島崎藤村の後、翌年、夏目漱石が明治二十七年(1894)十二月末から翌二十八年一月七日まで「帰源院」に入り、年末年始のあいだ参禅します。が、結局悟りを得ないまま下山します。漱石は、この参禅の体験を、後年小説「門」や「夢十夜」のなかに描いています。「鎌倉文学散歩」より

帰源院本堂

夕方の八幡宮 H22年11月20日17時頃